2026/09/15 21:59
馬車のお婆は突然
やってくる
これは、私の父の話。
父は漁師だった。
ある冬の夜。
船の上で仕事をしていた父は、何かの拍子に機械のようなものにぶつかり、そのまま海へ投げ出された。
真冬の夜の海。
助けられて病院へ運ばれた父は、足を大きく負傷していて、手術を受けることになった。
ボルトを入れるほどの怪我だった。
家族は、
「真冬の夜の海に落ちて、よくこれだけで済んだな」
と言われた。
本当に、生きて帰ってきたこと自体が奇跡みたいな事故だった。
父自身は、そのとき自分を守ってくれた存在について、いろいろなことを話していた。
私はそれを、父がそう信じていたこととして聞いていた。
そして父が入院していたときのこと。
病室は4人部屋だった。
父の隣のベッドには、年配のおじさんがいた。
そのおじさんは、奥さんと楽しそうに話していて、とにかく元気だった。
私と母が父のお見舞いに行っていたときも、
「この人、めちゃくちゃ元気じゃん」
と思っていた。
ところが、突然父が言った。
「……あ~、あのおじさん、もうだめだな」
私と母。
「はぁ???」
いやいやいや。
どう見ても元気じゃん。
なんでそんなこと言うの?
私たちが聞くと、父は普通の顔で言った。
「いや、もう無理だよ」
「なんで?」
すると父が、
「お婆が迎えに来たから」
と言った。
…………
「お婆???」
私と母、完全に意味がわからない。
「どこのお婆???」
父は病室の窓の外を指した。
「ほら」
病室は3階だった。
窓の外には空と雲しか見えない。
私には何も見えない。
でも父は、
「お婆が迎えに来たから、もうだめだなー」
と言う。
「どこにいるの?」
と聞いたら、
「天国から迎えに来てるよ」
…………
「は???」
さらに聞いた。
「お婆、一人で来てるの?」
すると父。
「馬車に乗ってきてるよー」
私と母。
「馬車!?!?!?🤣🤣🤣」
いや、ちょっと待って。
馬車って何🤣
その瞬間、私の頭の中に浮かんだのは、
「えっ……かぐや姫???🤣」
だった。
父はいたって普通。
私と母だけが完全に置いていかれている。
そして、その日の夜。
隣のベッドのおじさんは、突然容体が悪くなり、そのまま亡くなった。
私は今でも覚えている。
父が言った、
「お婆が迎えに来た」
という言葉。
そして何より、
「馬車に乗ってきてるよー」
という一言。
父にとっては、きっと何でもないことだった。
幽霊も見える。
普通に話もする。
怖がるという感覚も、たぶん私たちとは違っていた。
そんな父の人生には、
こういう話が、まだまだ山ほどある。
そして父は生前、よく笑いながら言っていた。
「俺の人生録、小説にしたら売れるなー」
私は当時、
「また言ってるよ🤣」
くらいに思っていた。
でも今になって思う。
……お父さん。
本当に書き始めちゃったよ🤣📱
必要なときに、そっとのれんを。🌈

